トートロジー文とコピュラ文との関わりについて
――その意味構造に注目して――
Relationship between Tautology Sentence and Copula Sentence:
A Perspective of Semantic Structure
陳 訪澤/張 秀娟
澳門大学人文学院
要旨
従来の研究においては、トートロジー文を特殊なコピュラ文と位置付けて研究するものが多いが、コピュラ文と比べて、その特殊性はどこにあるか、両者はどのような関わりを持っているかなどについて、明確に答えたものはあまり見あたらない。本研究は西山(2003)の研究に基づいて、その意味構造に注目してトートロジー文「N は Ni
だ」とコピュラ文「A は B だ」の関わりについて考察した。その結果、トートロジー文とコピュラ文の関わりは、意味構造から、前者が後者の部分集合で、両者は措定文(N は type 指示)、倒置同定文(N は観念上指示)、定義文において接点がある、ということが分かった。
キーワード:
トートロジー文、コピュラ文、意味構造、関わり
1.はじめに
レトリックにおけるトートロジーは論理学で常に恒真命題2として扱われ、表面的には何の情報も伝えないが、日常会話や文学作品においてその裏にある語用論的意味を活かして頻繁に用いられている。トートロジーはさまざまな形式を持っているが3、本研究は主語と述語に同一の名詞句が登場する「N は Niだ」構文4のトートロジー名詞述
語文(以下、トートロジー文という)を考察の対象とし、それとコピュラ文との関わりを究明する。コピュラ文は形式上「A は B だ」構文と「B が A だ」構文の 2 種類に分けているが、「N は Niだ」構文との対応を考慮して、本研究の対象は「A は B だ」構文に限る。
従来の研究では、トートロジー文を特殊なコピュラ文と位置付けて研究するものが少なくないが、コピュラ文と比べて、その特殊性はどこにあるか、両者はどのような関わりを持っているかという問題について明確に答えているものはほとんど見あたらない。本研究の目的は西山(2003)の研究に基づいて、意味構造からトートロジー文
とコピュラ文との関わり、つまり、トートロジー文とコピュラ文との対応関係について考察することである。西山(2003)の研究によれば、「AはBだ」構文のコピュラ文は意味構造から、措定文・倒置指定文・倒置同定文・倒置同一性文・定義文の5種類に分けられている。したがって意味構造から両者の関わりを究明するには、トートロジー
文の意味構造を明らかにしなければならない。本研究では、文学作品やドラマのセリフからトートロジー文の用例を集め、語用論における関連性理論の立場からトートロジー文における名詞句NとNiの指示性と意味構造を検討することによって、トートロジー文とコピュラ文との関わりを明らかにする。